デザイン業務を担当している方だけでなく、マーケティングやライティングなどのコンテンツ作成に携わる方なら一度は耳にしたことのある「トンマナ(トーンとマナー)」。トンマナは、企業の方針をデザインやテキストに落とし込み、コンテンツに一貫性を持たせるために必要不可欠です。実際に広告運用業務でも、トンマナが定まっているとコンテンツ作成時に困りません。
しかしトンマナを作成するとなると、決めるべき要素は何かが分からず、困ってしまうこともあるかと思います。この記事ではトンマナの重要性や、一貫性をもったコンテンツ(画像や文章など)を作るために決めておくべきトンマナについて解説します。
トンマナとは、トーン(調子)とマナー(様式)を省略した呼び方で、デザインやライティングの表記に一貫性を持たせるためのルールを指します。トンマナは、商品やサービスの世界観や企業のブランドイメージを人々に分かりやすく伝えることを目的に作成されます。
例えば、広告運用者にとって身近な広告媒体のデザインを例にとると、LINE 広告なら緑、Yahoo!広告なら赤色というイメージカラーがすぐに連想されますよね。
またテキスト表記に関しても、カタカナで「ライン広告」と表記されるよりも、アルファベットで「LINE 広告」と記載されている方が、いつも見ているものだと思うでしょう。
このように、誰にでもすぐに商品やサービスを思い浮かべてもらうためには、トンマナの統一は不可欠です。ユーザーに見られるサイトや商品、サービス自体で統一され、何度もユーザーに見てもらうことで、その世界観やブランドイメージが浸透していきます。
商品やサービスの世界観や、企業のブランドイメージを伝えるためという理由以外にも、トンマナが重要な理由は3つあります。
トンマナを統一することでユーザーの記憶に残りやすくなり、すぐにどこの企業のサービスか分かるようになります。
近年では、ユーザーがインターネットを通じてさまざまなサービスを知ることができるようになりました。そのため、ユーザーが比較検討する段階で、自社の商品やサービスを想起してもらう必要があります。
LINE や Yahoo! では、各社のアイデンティティをユーザーに伝えられるように、ブランドエッセンスやデザイン原則を設けています。
トンマナを統一することは、制作工数を削減することにも繋がります。トンマナを確立しておくことで全員が同じ方針でコンテンツ作成をすることができ、作り直しや修正などの時間を削減できます。
トンマナがなければ、クリエイティブ作成やライティング業務などが発生するたびに、どういった方針で作成するのか認識のすり合わせが必要になるのです。
方針のすり合わせが上手くいかないと作り直しや修正も多くなるため、制作の手間が多くかかってしまいます。
トンマナがあればどういう方針で作成すればよいのかが明確になるため、ミーティングの時間や修正回数が少なくなり、制作工数を削減できるようになるのです。
トンマナを決め、共有することは、コンテンツの質を一定以上に保つために必要不可欠です。
コンテンツを納品する人によって完成度がバラバラだと、同じ会社が作ったものなのかとユーザーに不安や不信感を与える可能性もあります。
コンテンツを作成する全員がトンマナを守って作成することによって、ブランドのイメージや品質を守ることに繋がります。
例えば LINE では、標準化されたカラーやアイコン、グラフィックといった「Design Foundation」を設けて、コンテンツの一貫性や質の高さを担保しています。
トンマナの重要性を理解したところで、次は具体的なトンマナの決め方を解説します。トンマナは、目的とターゲット/ペルソナに合わせて設定します。この2つの要素がトンマナを構成する重要なものとなります。
自社が誰に対してどのようなメッセージを届けたいのかを決めておかないと、方向性がブレて、トンマナの一貫性がなくなってしまいます。
企業のブランド保護のために全サービス統一のトンマナを作るのか、それとも特定の商品やサービスのイメージを確立するために特定の商品やサービスに絞ったトンマナを作るのかという風に、トンマナの方向性は作成する目的によって大きく変わります。
例えば、LINE は国内外に100以上のサービスを提供しているため、サービス共通のデザインシステムとファミリーサービスそれぞれが柔軟に対応できるデザインシステムが必要です。そのため、サービス共通のトンマナである「LINE Design System for Messenger」と、ファミリーサービスのためのトンマナである「LINE Design System for Global family service」に分けて構築されています。
LINE のファミリーサービスの1つである「LINE Pay」は、各国の市場環境に合わせて現地化して運営しています。事業構造に基づくブランド定義であるため、台湾の「LINE Pay Money」やタイの「rabbit LINE Pay」はブランドロゴも違います。
まずは何を目的にトンマナを設定するのかを決めましょう。画像や動画、記事などを作る目的によってトンマナの重要な要素が変わるので、必ず最初に決めておきましょう。
例えば、ブランディングを目的にするのであれば、企業ブランドやサービスの世界観を伝えることが重要ですよね。そのため、ブランディング目的であれば、評判や評価に繋がるような要素を重視してトンマナを定めます。
ほかにも認知が目的であれば、多くの人に自社の商品やサービスを知ってもらいやすくしたり、購入や問い合わせなどのコンバージョンを狙うのであれば、ユーザーにアクションしてもらいやすくすることが重要です。
また、最近では SNS でのシェアもユーザーとの接点として重要なため、共感してもらいやすいかどうかも重要な要素になりえます。
目的 | トンマナで重要な要素 |
---|---|
ブランディング | 評判や評価 |
認知 | 情報の分かりやすさ |
コンバージョン | アクションへの繋げやすさ |
シェア | 共感 |
トンマナ作成の目的が決まったら、次はターゲット/ペルソナを決めます。この2つを決めてからトンマナを作ることで、クリエイティブや文章を届けたい人にとって親しみやすいものにすることができます。目的に合わせて、自社の商品やサービスを使う人を具体的にイメージして設定するといいでしょう。
例えば、SNS としての LINE であれば日本全国の携帯電話をもっている人がターゲットですが、ファミリーサービスの「LINE Staffy」は人気アパレルブランドのスナップが更新されるサイトなので、主に20代~30代の女性がターゲットです。そのため、ブランドカラーを使いつつターゲットに沿ったトンマナになっています。
ここからはデザインとライティングに分けて、トンマナの作り方や重要なポイントなどを紹介します。まずは、クリエイティブやランディングページ制作に関わる、デザイン視点のトンマナの決め方を4つに分けて解説します。
1つ目は、企業やコンテンツの印象を大きく左右する配色についてです。配色はサイト全体の雰囲気を決めるだけでなく、ユーザーが商品やサービスと合わせてイメージするものでもあるので、どんな色を用いるかは非常に重要です。
例えば、LINE であれば緑をイメージするかと思いますが、これは安定や生命力、向上性を象徴する色として設定されています。
LINE ブランドを代表する色は「LINE Forest Green」です。
引用元:LINE CREATIVE Color
緑は安定を感じさせ、生命力と恒常性を象徴し、全世代に適した色だと考えています。
配色は、記憶の定着やブランドアイデンティティ、商品コンセプトのイメージを伝えるために重要なので、必ず決めておきましょう。その色を用いる目的や、どのような印象を持ってもらいたいのかを明確にしておくと、スムーズに決めることができます。
使用する色が多すぎるとイメージを上手く伝えることが難しくなります。そのため、メインカラーを1色、メインカラーにマッチするベースカラーや装飾などに使うポイントカラーを3色程度に絞りましょう。一般的には、ベースカラー70%、メインカラー25%、アクセントカラー5%の配分が目安とされています。
デザイン面でのトンマナを決めるとき、企業やコンテンツの印象を大きく左右するフォント選びは非常に重要です。同じテキストでもフォント(ゴシック体や明朝体など)やフォントスタイル(斜体や筆記体など)が違うだけでかなり印象が変わります。
例えば、明朝体であれば「大人っぽい」や「日本っぽい」などのイメージに、ゴシック体だと「力強い」や「モダン」などのイメージになります。フォント一つで読み手に与える印象を大きく変えられます。
同じ「おはようございます」でもゴシック体だと元気よく「おはようございます!」と挨拶しているイメージを持たせたり、明朝体だとおしとやかに「おはようございます。」と挨拶しているイメージを持たせることができます。
フォントは、選択する書体や太さによってターゲットに与える印象が変化します。そのため、ターゲットに感じてほしい印象によってフォントを選択しましょう。
例えば、LINE は「利便性とフレンドリーなアイデンティティ」をモットーに、「LINE Seed JP」という英語と日本語が混在するような文章でも同じ印象が持てるフォントを自社で開発しています。
LINE SeedはLINEの利便性とフレンドリーなアイデンティティをもとに作られたLINEの新しいフォントです。
引用元:LINE Seed
Seedという名前は、LINEのサービスにしっかり植えられた種が芽を出して実を結ぶように、利用者と共に成長するという意味が込められています。
日本語書体のLINE Seed JPは他言語のフォントと同じDNAを持ち、英語と日本語が混在するような文章でも同じ印象を持ってもらえるように書体のボリュームと重心のバランスを合わせました。そのため、追加の調整をせずともバランスよく使用できます。
このように、どのような目的でどういった印象を持ってもらいたいかでフォントを選択しましょう。
制作物を引き立たせる画像やイラストについても、トンマナを決めておくことをおすすめします。画像やイラストは、ユーザーに瞬時にイメージを伝えられるという点で、重要な要素です。
配色やフォントによって作り出されたイメージが壊れないように、利用する画像やイラスト、加工方法も統一感が出るようにルールを決めましょう。
厳しいガイドラインがない限り、画像やイラストに関しては使うものの種類よりも、使わないものの種類を決めておいた方がよいでしょう。
厳しく決めすぎてしまうと制作物のクリエイティビティが失われる可能性が高まるので、プロジェクトに関わるメンバーがある程度自由に選択できて、統一感が出るように設定しましょう。意見が分かれることがあれば、何がよくないのかを言語化してディスカッションするのもおすすめです。
デザインのトンマナ決めには余白のルールも含まれます。余白もデザインでは重要な要素で、適度な余白を空けておくことで、ユーザーに情報が伝わりやすくなります。
例えば以下の画像のように、文字の上下左右の間隔を0にしてしまうとテキストが読みにくいですよね。情報がユーザーに正しく伝わるよう、余白は必ず設定しましょう。
以下のように適度に余白を設けることで、テキストが読みやすくなり、情報が伝わりやすくなります。
続いて、記事の執筆やランディングページの文章、広告文などの「文章」に関わるトンマナ作成のポイントを6つに分けて解説します。
文章のトンマナではじめに決めておきたいのが、表記ルールです。文章に統一感を持たせ、読む人がリズムよくスムーズに読めるよう、表記ルールを定めましょう。表記がバラバラだと読みにくく、最悪の場合、離脱に繋がることもあります。
特に日本語のコンテンツであれば漢字やひらがな、カタカナ、アルファベットの使い分けや、算用数字や漢数字の使用方法などを決めておく必要があります。弊社のオウンドメディアでも、漢字のひらき・とじや、記号・スペースの利用などにルールを設けています。
2つ目は、文章のスタイルや様式を表す文体です。言葉の並べ方や選択そのものを指します。
文体には複数の種類とそれぞれの特徴があります。
文体 | 特徴 |
---|---|
口語体 | 日常的な会話や文章で使われる言葉や表現方法。話し言葉。 |
文語体 | 硬い文章を書くときに使われる言葉や表現方法。書き言葉。 |
和文体 | 日本語の文法に従い、ひらがなを主として漢字を交えて書いた文体。 |
漢文体 | 中国語の文法に従い、漢字・漢語で書いた文体。 |
書簡体 | 書簡=手紙の形式を取って、主観的に書いた文体。 |
論文体 | 論文の形式を取って、客観的に書いた文体。 |
ターゲット/ペルソナに親しみやすい文体にすることでコンテンツに誘導しやすくなったり、内容を理解してもらいやすくなります。
文章を作成するうえでは、使用禁止用語を決めておくことも重要です。使用禁止用語には差別的な表現や誇張表現、揶揄するような表現といった、使用することでイメージ低下に繋がるものはもちろん、ブランドイメージにそぐわないものや、普段お客様に対して使っていない言葉なども明示するといいでしょう。
差別的な表現や誇張表現、揶揄するような表現は対象者を傷つけるばかりではなく、ユーザーを不快な気持ちにさせ、企業や商品、サービスのイメージ低下にも繋がります。
また、ブランドイメージにそぐわないものを使用すると、これまで積み上げてきた企業や商品、サービスのイメージが壊れ、ユーザーが離反する可能性もあります。言葉一つでユーザーの気持ちが変わってしまう危険もあるので、使用禁止用語は明確に示したり、言葉を一つ一つ列記するのが難しい場合は、ベースとなる考え方や例を示してあげるといいでしょう。
例えば、以下のような考え方や例を示すだけでも文章作成のときの指針になります。
このように使用禁止用語をあらかじめ明示したうえで、文章作成に関わる人には細心の注意を払って執筆してもらい、ブランドやコンテンツの信頼性を守る必要があります。
文章のレイアウトを決めることも、トンマナに必要な要素です。例えば、各コンテンツごとに自由なレイアウトでコンテンツを作成してしまうと、ユーザーが見づらく、内容を理解するのに時間がかかってしまいます。
一定のレイアウトルールを定めるだけで読みやすい文章になり、伝えたい内容が整理されます。具体的には、見出しとテキストの個数や順番、どのタイミングで画像やイラスト、表などを挿入するかなどです。
弊社では、見出しのあとに必ずテキストをいれることや、画像の連続使用はしないことなども細かく定めています。
ユーザーにとって見やすいコンテンツになるよう、段落ごとのボリュームと改行のタイミングもトンマナとして定めるといいでしょう。
コンテンツ内の段落ごとにボリュームが極端に違っていたり、改行のタイミングがバラバラだと、読みにくいコンテンツになり、離脱に繋がる危険性があります。そのため、段落と改行はある程度統一感があるように設定し、ターゲットにとって心地いいコンテンツにする必要があります。
弊社であれば、1つの段落で100文字から多くて200文字前後、2〜3行ごとに改行するというガイドラインのもと記事を作成しています。
文字数はターゲットや構成、掲載する場所によって設定しましょう。ターゲットや掲載する箇所によって適切な文字数があります。それぞれ読んでもらうときに、適切な文字数はどのくらいかを意識してみましょう。
弊社の場合、一文あたりの字数が50字前後に収まるように文章を整えています。一文が長くなりすぎると、読んでいるうちに文章で伝えたい内容が分からなくなるので、50字を目安にしています。
もちろん、Web メディア以外では例外もあります。将棋の専門誌「将棋世界」を例に挙げると、試合の解説記事では1ページあたりの字数を400字以上に設定し、画像の数を最小限に抑えて誌面を構成しています。
専門誌の読者は、その分野の知識や詳細な内容を目的に記事を読むことが多いと考えられるため、文字数が多く読み応えのあるコンテンツを提供しているのだと思われます。しかし、1行に17文字程度のため、1ページあたりの文字数が多くても読みやすいよう工夫されています。
トンマナの重要性や設定の仕方について解説してきました。記事を読んだだけでは、実際に使いこなすまで時間がかかるかもしれません。
トンマナを守って画像を制作することで、デザインを通じて自社の理念・考えを伝えることができます。また、トンマナを意識して作成した記事は、読者に負担なく読んでもらえるようになります。トンマナについて意識しながら、デザインやライティングに挑戦してみましょう。
広告運用 コンサルタント
大阪の広告代理店で1年ほど勤務し、2021年1月に広告事業部に中途入社。SNS広告の運用が好き。趣味は読書とアウトドア好きな友達に連れて行ってもらうキャンプ。
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